2022.07.23 運行管理 社用車での交通事故はだれが負担する?賠償責任の割合や修理費用とは
営業車や運搬車など、業務の際に車が欠かせないという事業者も多いでしょう。車を利用する場合、交通事故のリスクについても考えておかなければなりません。
しかし、実際に社用車での交通事故が発生したとき、事業者がどんな負担や責任を負わなければならないのか具体的にはよく知らないというご担当者様も多いかと思います。
社用車で交通事故を起こした場合、従業員だけではなく事業者にも責任が発生します。今回は、社用車の交通事故における事業者の負担と責任について解説します。
社用車で交通事故を起こした時に事業者が負担する責任の種類
従業員が社用車で交通事故を起こした場合、事故を起こした当人だけでなく事業者にも責任が発生します。事業者が負うべき責任は次の2種類です。
- 使用者責任
- 運行供用者責任
それぞれ、詳しく解説します。
1.使用者責任
使用者責任とは、業務にあたって従業員が他人に損害を与えた場合に、従業員だけでなく事業者もその責任を負うという法律の制度のことです。事業者は従業員の活動によって売上・利益を得ているため、活動による損失についても責任を負うべきだとの考え方から生まれました。交通事故を含む業務上の事故だけでなく、社内での暴力やセクハラなどの場合にも使用者責任が問題になることがあります。
この使用者責任は、「業務中に他人に損害を与えたこと」が問題となるため、業務中に自家用車で事故を起こした場合も責任の対象です。また、使用者責任は人身事故と物損事故、どちらの場合でも発生します。
2.運行供用者責任
交通事故の場合、事故を起こした当人だけでなく、運行供用者にも責任が発生します。運行供用者とは、一般的に車の所有者が運行供用者となります。
社用車の場合には、事業者が運行供用者となるため、交通事故が起きた場合には運行供用者責任を負わなければなりません。運行供用者責任は、人身事故の場合のみ発生します。
交通事故が起きた状況による事業者の責任の違い
社用車で交通事故を起こしてしまった場合、業務中の事故か、業務外の事故かによって事業者が負うべき責任は異なります。
業務中の場合
交通事故が業務中に発生した場合、事業者には使用者責任と運行供用者責任の両方が発生します。営業先への移動中など業務の範囲内で車両を使用した場合だけでなく、通勤など、業務のために必要があって車両を使用している場合も業務中とみなされます。
業務外の場合
業務外の社用車による交通事故では、事業者には運転供用者責任のみ発生します。使用者責任とは、業務中の従業員に対して発生する責任であるため、業務外の場合は発生しません。
しかし、業務外であっても事業者が車両の運行供用者であることに変わりはないため、業務外の交通事故でも運行供用者責任を伴います。
社用車事故の賠償責任の割合
社用車による交通事故で事業者に責任が発生する場合、賠償責任は事業者と実際に車を運転していた従業員の連帯責任となります。賠償責任の割合はどちらも100%で、法律用語ではこれを「不真正連帯債務」と呼びます。
両方に賠償責任が発生するため、被害者は従業員と事業者のどちらにも賠償請求が可能です。多くの場合、支払い能力がある可能性が高い事業者への損害賠償請求が行われます。
事業者が賠償金を支払った場合、その一部を従業員に請求することが可能です。これを、求償権と呼びます。
一方、従業員が賠償金を支払った場合に一部を事業者に請求することについては「逆求償」と呼ばれ、従来その権利は認められないと考えられていました。本来は事故を起こした当人が賠償金を支払うべきであり、事業者に賠償金を請求できるのは被害者保護が目的であると考えられていたためです。
しかし、2020年2月には、最高裁判所で逆求償を認める判決が下されています。被害者が誰に賠償請求をするかによって、賠償金の負担割合が変わるのは公平ではないというのが、逆求償が認められた理由です。
そのため今後は、従業員が事業者に賠償金の一部を請求する逆求償についても認められると考えておいた方が良いでしょう。
交通事故を起こした社用車の修理費の負担
交通事故を起こした社用車の修理費に関しては、法律などによる具体的な決まりはありませんが、事業者が負担することが多いようです。従業員が事故を繰り返している場合や、運転中のスマホ使用による脇見運転のように重大な過失がある場合には、修理費を請求する場合もあります。
自動車保険を利用しての修理も可能ですが、法人向けの自動車保険は1件の事故で翌年の保険料が大幅に上がるケースもあります。保険料が上がってしまうと損だと判断した場合には、保険を使わず修理しても問題ありません。
社用車による交通事故の負担に関する注意点
社用車による交通事故の負担に関して、注意が必要なポイントを2つ紹介します。
- 全額を従業員に請求するのは難しい
- 雇用契約書などで賠償金や修理費の負担を約束させてはいけない
賠償額や修理費の全額を従業員に請求するのは難しい
前述の通り、社用車による交通事故の場合、実際に運転していた従業員と事業者のどちらにも責任があります。そのため、賠償額や修理費のうち、従業員に請求できるのは一部のみです。全額を請求するのは難しいと考えておきましょう。
雇用契約書などで賠償金や修理費の負担を約束させてはいけない
万が一の事故に備えて、事前に雇用契約などで、賠償金や修理費の負担金額について定めておけば良いと考える方もいるでしょう。しかし、賠償金や修理費の支払いを事前に決めておくことは法律で禁止されています。これを、「賠償予定の禁止」といいます。事前に決まりを作る場合には、賠償金や修理費を請求する「場合がある」といった表現であれば可能です。
社用車での交通事故では事業者にも負担が発生する
社用車で交通事故を起こした場合、実際に運転していた従業員だけでなく、事業者にも損害賠償などの責任が発生します。そのため被害者は、事業者と従業員、どちらにも損害賠償を請求可能です。
修理費の負担割合について具体的な決まりはありませんが、多くの場合事業者が負担する傾向があります。
この記事を参考に、ぜひ一度万が一の事故についても考えてみてください。