2025.07.27
カテゴリ:安心/安全/教育
タグ:安全対策
送迎業務に潜むリスクとは?事故の主な原因や対処法も詳しく解説「従業員に送迎を頼んでいるけど、本当にこのままで大丈夫なのだろうか?」
「もし事故が起きたら、会社にどんな責任が及ぶのか不安」
このような悩みを抱える経営者の方は少なくありません。従業員による送迎はコスト削減や柔軟な対応といった利点があるように見えますが、実は見過ごせないリスクも潜んでいます。
この記事では、従業員による送迎運転に伴う主なリスクについて、法的責任、労務管理、経営的ダメージの観点から解説。さらに、送迎中に起こりうる事故の具体的な原因や、万が一の事故発生時に必要な対応方法まで、実務に役立つ情報を網羅します。
記事を読み終えることで、自社の送迎体制に潜むリスクを正しく認識し、今後の対応方針を明確にする手助けとなるはずです。管理体制の見直しや従業員への教育、外部委託の検討など、最適な判断を行うために、ぜひ最後までご覧ください。
従業員による送迎運転に潜む主なリスク
従業員による送迎運転には、主に次のようなリスクがあります。それぞれ、詳しく解説します。
- 法的責任と企業の損害賠償リスク
- 従業員の負担と労務管理リスク
- 万が一の事故時の経営的ダメージ
法的責任と企業の損害賠償リスク
企業が従業員に送迎運転を任せる場合、万が一事故が発生すると、企業側が法的責任を問われる可能性があります。これは「使用者責任」や「運行供用者責任」といった法律に基づくものです。
使用者責任とは民法第715条に定められたもので、従業員が業務中に加えた損害について、使用者である企業が賠償責任を負うという規定です。また、自動車事故においては自動車損害賠償保障法により、車両の所有者や運行を実質的に支配している者に対し「運行供用者責任」が課せられます。
たとえば、業務としての送迎中に従業員が第三者に怪我をさせた場合、企業が被害者に対し損害賠償責任を負うことになります。結果として、高額な賠償金支払いや企業イメージの悪化につながるリスクがあるため、軽視はできません。
このように、法的責任は経営者自身のリスクマネジメントに直結するため、送迎運転を任せる体制には慎重さが求められます。
従業員の負担と労務管理リスク
従業員による送迎業務は、運転を本業としていないスタッフにとって大きな精神的・身体的負担になります。その結果、労務トラブルやモチベーション低下を招くリスクが高まります。
運転は集中力と判断力を要する業務であり、たとえ短時間であっても緊張感が続く作業です。営業職や介護職、保育士など、本来の業務で既に負荷がかかっている従業員に運転業務を加えることで疲労が蓄積しやすくなります。
また、業務命令として運転を課すことで、事故時の責任問題や安全配慮義務の観点から労働問題へ発展するケースもあります。特に労働時間の管理が不十分な企業では、労基署の指導対象になる可能性もあるのです。
従業員の安全と働きやすさを守るためにも、送迎業務の在り方には配慮が必要です。
万が一の事故時の経営的ダメージ
事故が発生すると、企業は直接的な損害に加えて長期的な経営リスクを抱えることになります。具体的には、慰謝料や修理費といった費用負担のほか、保険料の上昇、信用低下、顧客からの信頼喪失といった副次的被害が想定されます。
たとえば、送迎中の事故で顧客が負傷した場合、企業は損害賠償だけでなく契約解消やSNS等での風評被害に見舞われる可能性があります。また、企業内部では事故対応にリソースを割かれ、本来の業務に支障が出ることも少なくありません。
これらの影響は特に中小企業にとって致命的となる場合があり、経営の根幹を揺るがしかねません。送迎運転におけるリスクは「万が一」ではなく「いつ起きてもおかしくないリスク」として捉えておく必要があります。
送迎中に発生する事故の主な原因
送迎中に発生する事故には、主に次のような原因があります。それぞれ、詳しく解説します。
- 運転者のヒューマンエラー
- 車両や設備の不備
- 企業側の管理不備・ルール不足
- 天候や交通状況などの外的要因
運転者のヒューマンエラー
送迎中の事故で最も多い原因のひとつが、運転者のヒューマンエラーです。特に業務での運転に慣れていない従業員の場合、車両感覚や判断力に不安が残るケースが多く見られます。
例えば、普段業務で車を使用しない従業員が送迎を担当すると、運転技術の不足に寄り操作ミスが起きやすくなります。また、早朝や深夜の送迎では、過労や睡眠不足により集中力が低下するケースもあるでしょう。
さらに、スマートフォン操作や考え事などで注意力散漫になったり、不慣れな道路環境で標識の見落としや判断ミスが起きたりするケースもあります。
このように、運転手のヒューマンエラーはさまざまな原因で起こり、事故につながる可能性があります。
車両や設備の不備
車両自体の整備不良や、備品・設備の不備も事故の原因となり得ます。送迎業務に使用する車両が安全に保たれていなければ、いくら運転者が注意していても防げない事故が発生する可能性があります。
たとえば、定期点検の未実施や整備の遅れによって、ブレーキやタイヤの異常が見逃されていたといったケースが考えられるでしょう。さらに、ドライブレコーダーが設置されていないと、事故の原因や責任の所在が不明確になるおそれがあります。また、ETCの機器に不備があると、料金所での予期せぬ停止や進路変更を強いられ、事故のリスクが高まります。
このような事態を防ぐには、社内で定期的な点検・整備スケジュールを設け、車両管理の体制を整備することが重要です。
企業側の管理不備・ルール不足
事故の背景には、企業の管理体制の甘さがあるケースも少なくありません。たとえば、運転業務を担う従業員の運転資格や適性を十分に確認しておらず、過去の違反歴や健康状態の問題を見落としてしまうケースが考えられます。
また、アルコールチェックや体調確認といった基本的な安全管理が実施されていない場合、重大事故を招くおそれがあります。さらに、長時間労働に加えて送迎運転を任せることで、従業員の疲労が蓄積し、注意力の低下を引き起こす可能性も否定できません。
これらの管理不備は、すべて未然に防ぐことが可能なリスクです。運転業務に関する社内ルールを明文化し、継続的に教育・実施を徹底することが、事故防止と労務トラブル回避の両面において極めて重要です。
天候や交通状況などの外的要因
送迎中の事故には、運転者や企業の努力だけでは避けきれない外的要因も関係します。たとえば、雨や雪といった悪天候は視界不良や路面スリップの原因となり、特に運転経験が浅い従業員にとっては対応が難しくなります。
また、通学時間帯の走行では、児童や自転車が突然飛び出してくるリスクもあるでしょう。さらに、道路工事や交通渋滞により、イレギュラーな進路変更や急停止を強いられる場面も想定されます。
こうした外的要因は完全にコントロールすることはできませんが、あらかじめリスクの高い時間帯やルートを避ける運行計画を立てることで、事故発生の可能性を大幅に軽減することが可能です。
送迎中に事故が発生した場合の対処方法
送迎中に事故が発生した場合には、次のような対処が必要です。それぞれ、詳しく解説します。
- 安全確保と応急処置
- 110番通報と事故の届出
- 会社・上司への報告
- 保険会社への連絡
- 事故報告書の作成
- 再発防止策の策定
安全確保と応急処置
事故が発生した直後は、何よりも人命の確保が最優先です。負傷者がいる場合は、ためらわずに119番通報を行い、応急処置を試みましょう。また、二次災害を防ぐため、車両を可能な限り安全な場所へ移動させ、ハザードランプや停止表示板などを使って後続車に注意を促す措置も必要です。事故の規模や状況によっては、救急車や消防、さらには警察の出動が必要となるため、冷静に対応し、関係機関との連携を優先しましょう。
110番通報と事故の届出
道路交通法第72条では、交通事故を起こした場合は警察への通報が義務付けられています。たとえ軽微な接触事故であっても、警察を呼ばずに当事者同士の口約束で済ませるのは避けるべきです。警察を通じた正式な事故証明がないと、後日の保険請求や損害賠償手続きに支障が生じる可能性があります。事故現場では落ち着いて通報し、警察官の指示に従って対応を進めることが重要です。
会社・上司への報告
現場対応がひと段落したら、速やかに会社へ事故発生の報告を行いましょう。直属の上司または安全運行管理者に、事故の概要、関係者、負傷の有無などを正確に伝えることが求められます。可能であれば、現場の写真やドライブレコーダー映像、事故相手の氏名・連絡先・保険会社情報などもあわせて共有しておくと、社内対応や保険処理が円滑に進みます。
保険会社への連絡
事故が発生したら、加入している自動車保険の事故受付窓口へ早急に連絡します。社用車であれば会社の契約保険、マイカーの場合は従業員個人の保険が適用されますが、業務中の使用と認められないケースでは補償対象外となることもあります。誤解やトラブルを避けるためにも、どの保険が適用されるか事前に確認し、迅速に連絡・報告体制を整えておくことが重要です。
事故報告書の作成
社内の事故対応フローに則り、所定の様式に基づいた事故報告書を作成します。事故の経緯、現場状況、対応内容、今後の対応方針などを記載し、必要に応じて保険会社や法務担当とも連携しましょう。報告内容は曖昧にせず、できる限り客観的かつ事実に基づいて記録することが、今後のトラブル予防にもつながります。
再発防止策の策定
事故の発生後には、再発防止に向けた具体的な対策を講じることが重要です。該当従業員へのヒアリングを通じて過失の有無や運転適性を評価し、必要に応じて再教育や運転業務からの一時外しを検討します。また、安全運転研修の強化やチェック体制の見直しを実施することで、同様の事故を未然に防ぐ取り組みが可能です。労働災害に該当するケースでは、速やかに労基署への報告も行う必要があります。
送迎業務には大きなリスクが伴う
送迎業務は一見シンプルなようでいて、実際には法的責任や従業員の負担、車両管理、そして突発的な事故対応まで、多くのリスクを伴います。企業がこの業務を自社で担う場合は、従業員への十分な教育と、安全運行を支える管理体制の整備が不可欠です。
また、業務の性質上、全てのリスクを排除することは難しいため、場合によっては外部の専門業者に委託することも有効な選択肢です。プロのサービスを活用することで、安全性の向上と業務効率の改善を同時に実現できる可能性があります。リスクを的確に把握し、最適な手段を講じることが、企業にとっての安定した運営と信頼性の確保につながるでしょう。